12の月と、塔の上の約束~プチSS~

六青みつみ■

 

吾輩の名はアルザレト。今月もまたあの野獣がやって来た。アーガイルという名前の野獣が来るたび吾輩の大切なご主人、エリオンが泣くので吾輩はあいつが嫌いだ。
吾輩とご主人が暮らしているこの塔に、あの野獣がやって来るのは月に一度。そのたび、あの男はご主人の服を脱がせ、無体な真似をしては暴言を吐き、ご主人を泣かせる。特に最初の夜はひどかった。
あの野獣はご主人の話を聞かず、勝手に腹を立てて、痛がるご主人に散々無体な真似をして、後始末もろくにせず帰って行ったのだ。
翌月も同じことの繰り返し。
三度目には、さすがの吾輩も堪忍袋の緒が切れて、寝室の扉をかこじ開け、階下に飛んで行き、あの野獣の肩にがっちり爪を立ててやったのだ。ついでに、鉄をもねじ切る自慢の嘴で突いてやろうと思ったが、ご主人に泣いて止められたので渋々あきらめた。
てっきり吾輩に向かって拳を振り上げると思っていたあの野獣は、なぜか怒りもせず、驚いたことに、吾輩の蛮行に驚いて動揺していたご主人を慰めていた。吾輩はほんの少しだけあの野獣を見直した。
――本当に毛の先ほどだがな。
おっとあの男がやって来た。
おや、今朝は珍しく茶を飲んでいるぞ。む、こっちを見やがった。あ、ご主人に名前を呼ばれた。返事をしなければ。ちょっと近くに行って、

『アーガイル、好き!』

なんということだ。鸚鵡の悲しい習性で、つい、ご主人の口癖が…!

end

2007.10.17UP 禁無断使用
【12の月と、塔の上の約束】は小説リンクス2007年の
6月号・8月号に掲載された作品です